イベントレポート「次世代型ブロックチェーンと電力業界」前編 「いつでも、どこでも、好きなだけ電力を使える」ようにするためには?

イベント

COINAGE(コイネージ)が2018年12月17日(月)に開催した「Coinage Seminar Vol.5 次世代型ブロックチェーンと電力業界 ~分散型台帳は、電力業界の抱える問題をどう解決するのか~」に当社も参加・協賛いたしましたので、当日の様子をご紹介します。

当日は関西電力の石田文章氏、HashgraphベースのDapps開発を手掛けるKWH Foundationの松田道人氏、環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施されている江田健二氏、そしてHashgraph日本代表のミアン・サミ氏が登壇し、電力業界の抱える問題点と、それに対する分散型台帳のソリューションを掘り下げました。

みんなで議論し、みんなで良くするフェーズを実践するためのイベント


ミアン サミ氏 ヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph) 日本代表

はじめにHashgraph日本代表のミアン・サミ氏より挨拶と、本イベントの趣旨および流れが説明されました。ブロックチェーンをはじめとした分散型台帳の領域はまだまだ始まったばかりのフェーズであり、(業界人や開発者など)様々な背景を持つ人が一緒になって議論し、みんなで良くしていくことが重要であると感じており、「みんなで議論する」ことを実践するために今回のようなイベントを開催・参加したと伝えました。

本イベントでは「3つの要素」を意識

今回のイベントでは以下3つの点を意識して展開されています。

  • ゴール:電力業界の向かっている先や目的地はどこにあるのか?
  • 現在地:今の電力業界は「ゴール」から見てどのくらい離れているのか、また向かっている方向はゴールに向いているか?
  • 障害 :「現在地」から「ゴール」に向かう上で妨げとなっている障害はなにか?

電力業界における、これら3つの要素を明らかにした上で、今回のキーテーマである分散型台帳がどのように、「障害」を解決できるかを議論していきます。

本イベントには電力業界に勤めている人、分散型台帳領域で活動されている人、他業界でサービスやプロダクトを開発されている技術者、さらには投資家など幅広い方が参加されていました。
ミアン・サミ氏は「3つの要素を意識した議論を見るまたは参加することを通して、各人に新たなヒントや学びを持ち帰って貰えれば嬉しい」と話し、開催の挨拶を終えました。

エネルギー領域のカリスマインフルエンサーが思い描く20年後の姿


江田 健二氏 RAUL株式会社 代表取締役

ミアン・サミ氏からエネルギー領域におけるカリスマインフルエンサーと紹介され、登壇された江田 健二氏。江田 健二氏は慶應義塾大学経済学部を卒業後、 アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社・大手化学メーカ等のプロジェクトに参画。その後起業し、主に環境・エネルギー分野のビジネス推進や企業の社会貢献活動支援を実施されています。「世界の51事例から予見する ブロックチェーン×エネルギービジネス」や「かんたん解説!! 1時間でわかる 電力自由化 入門」など書籍も積極的に発表されています。

電気業界のゴールは「いつでも、どこでも、好きなだけ」使えるようにすること

「3つの要素」で言うところの「ゴール」についてお話いただきました。

江田 健二氏は、今までの経験や自身の理想を含んだ上で、今から20年後(2038年)における電力業界について「エネルギー(電気)がいつでも、どこでも、好きなだけ使える社会」を目指すことがゴールであるとお話されていました。

「いつでも、どこでも、好きなだけ使える」ものの代表例として、「情報」について触れ、インターネットが普及・発展したことで、誰もが手軽に様々な情報を知ることができるようになり、便利で豊かな社会になってきていると話しました。より豊かな社会となるために、電気・エネルギー業界においても、先述の目標を達成できるようになってほしいと思っているとのことでした。

また、電力が「いつでも、どこでも、好きなだけ使える」ようになった場合のメリットについて、例として以下のようなことを挙げています。

新産業の発展 多くのエネルギーを使用するであろう領域(例えば乗車型ドローンや宇宙開発など)がよりスピーディーに発展し、人々の暮らしを豊かにする。
医療の発展 大量に電気を使用するコンピューターによる解析などを低コストで実現できるようになることで、治療困難な病気を減らすことに繋がる。
争いの低減 電気をはじめとしたエネルギーに起因する争いを無くす、または低減させることが可能となる。

「どこでも、好きなだけ」の実現のためブロックチェーンなどのテクノロジーを活用

いつでも |◎ インフラが整備されていることに加えて、各電力会社の努力により利用が制限されるケースは限られていることから、概ね達成していると言える。
どこでも |△ 外出先などではまだまだ利用しにくい状況にある。ポータビリティを向上させたり、外出先で手軽に使用できたりするような仕組みづくりが必要。
好きなだけ|☓ 電気の使用料金はまだ高いため、「好きなだけ」利用することは難しい。新たなビジネスモデルや社会制度の構築、また技術革新が必要

江田 健二氏は、現時点での達成度について、「いつでも」は概ね達成できている反面、「どこでも」と「好きなだけ」については、まだまだ理想としている内容に追いついていないと話し、ブロックチェーンやEV、蓄電池などのテクノロジーの力によって解消できるのではないかと期待感を示されていました。

特に「どこでも」については、外出先で電気を貸し借りする場合、使用量などを正確に記録しておくことが重要となり、スマートメーターやブロックチェーンなどの技術との相性が良さそうであるともお話されていました。

20年後までには電力業界におけるGoogleが現れるかも!?


最後に2038年の社会における電力のあり方について上記のようにまとめた上で、このフェーズになれば、電力業界におけるGoogleも登場するのではないかと指摘。例えば、自身で発電するのではなく、いろいろなところで発電した電力と使用したいと考えている人をマッチングさせる仕組みを提供したり、スマートメーターで得た情報をもとにマーケティングを専門で行ったりするような電力会社も登場するかもしれないと紹介されていました。

電力会社が見据える今後のビジネスモデルは「プラットフォーマー」


続いて登壇されたのは関西電力 技術研究所 エネルギー利用技術研究室 主幹の石田文章氏です。石田文章氏は東大電気卒後、関西電力入社し、研究開発室研究企画グループマネジャー、秘書室マネジャー、新エネルギー・産業技術総合開発機構出向、地域エネルギー本部担当部長を経て2017年6月から現職となり、家庭用エネルギー分野の研究開発に携わられています。

今回の講座では関西電力が実際に行っている実証実験の事例などを含め、電力業界とブロックチェーンとの関わり方について、お話いただきました。

ブロックチェーンは電力P2P取引で活用できる“かも“しれない技術


※当日資料より

石田文章氏は長く電力業界に勤めているため、今できることと、できないことは理解している一方で、これからできるようになるかもしれない技術などについては慎重な見極めが必要と話した上で、ブロックチェーン・分散型台帳については活用できる“かも”しれないと考えていると私見を伝えました。ブロックチェーンが活用できるかもしれない領域として取り上げたのが、「電力P2P取引」です。

主な流れとしてはプロシューマー群がkWh(電力)を提供し、必要としているコンシューマー群が電力を受け取り、その対価として仮想通貨をプロシューマー群に支払うというものです。電力会社としてはプロシューマー群とコンシューマー群のマッチングや取引を約定させるためのプラットフォームを提供し、プロシューマー群とコンシューマー群の取引手数料を得るようなビジネスモデルを検討しているとのことでした。

補足
P2Pとは、Peer to Peer(ピア・ツー・ピア)の略で一般的なサーバーとクライアントをいう関係ではなく、クライアント端末同士が直接・対等にデータをやり取りする通信方式のことで、「Skype」などでも採用されている。電力取引にこの考え方を応用すると、プロシューマー群とコンシューマー群とのやり取りを直接・対等に実施することとなる。

事例1 電力直接取引プラットフォーム事業に係る実証研究(豪州パワーレッジャー、関西電力)


参照:関西電力のプレスリリースより

具体例として紹介された関西電力の取り組みの一つが「豪州パワーレッジャー社とのブロックチェーン技術を活用した電力直接取引プラットフォーム事業に係る実証研究」についてです。

概要としては関西電力の巽実験センターにおいて、太陽光発電設備が設置されたプロシューマー宅で発生した余剰電力を、同実験センター内の複数電力消費者宅へ送電し、各住宅に設置したスマートメーターを通じて得られた電力量やそれに伴う料金について、パワーレッジャー社の電力P2P取引システムにより、プロシューマーと電力消費者の間で、仮想通貨を用いて模擬的に取引を行うというものです。

補足
パワーレッジャー社:ブロックチェーンを活用した電力P2P取引プラットフォームの管理・運用を行っているオーストラリアの会社。

事例2 電力売買価格の決定を含む電力直接取引の実証研究(東京大学、日本ユニシス、関西電力、三菱UFJ銀行)

続いて紹介された実証実験は、関西電力の巽実験センター内で、太陽光発電設備が設置されたプロシューマー宅で発生した余剰電力を、電力の消費者とプロシューマーの希望価格から、各種方式により取引価格を決定し、ブロックチェーンを用いて模擬的に取引を行い、複数電力消費者宅へ送電するというものです。

石田文章氏は本実証実験における3つのポイントについて以下の様に紹介されていました。

  1. パワーレッジャー社との取り組みで使用した先方のシステムでは電力販売の単価が固定されているが、本実証実験では大きく3つの電力取引価格決定方式を採用し、自由度を高めている。
  2. 他社システムに依存するのではなく、関西電力の自社システムとして開発を実施した。
  3. 仮想通貨やブロックチェーン領域において先進的な三菱UFJ銀行社にアドバイザリーとして参加いただくことで、電力取引の対価として得られた仮想通貨を法定通貨に交換する方法などを議論している。

インターネット・ITのチカラで情報、音楽配信、書籍と様々な業界構造を破壊・民主化


松田 道人氏 エナリス みらい研究所 プロフェッショナル・フェロー

続いて登壇された松田 道人氏は、エナリスみらい研究所でプロフェッショナル・フェローを務め、経産省委託「再エネ電力のブロックチェーンを用いた取引スキームに関する標準化調査」委員やKWH FoundationのAdvisorとしてHedera HashgraphベースのDappsを企画開発も行われています。また、2018年4月にはAI 市長候補を標榜して多摩市長選挙に立候補し、世界初のAI候補として世界30カ国以上にニュース配信され注目されました。過去には、ファイル交換サービス「ファイルローグ」を運営し、日本レコード協会およびJASRAC(日本音楽著作権協会)とのサービス差し止め及び著作権損害賠償請求訴訟に敗訴したという経験も。

今までやってきたのは「業界構造の破壊・サービスの民主化」

株情報の民主化 ヤフー勤務時代に関わっていたサービスによって証券会社の社員のような一部の人しか持っていなかった株価情報やクチコミ情報を民主化・一般化。
音楽配信の民主化 起業し、楽曲を誰もが配信できるP2Pファイル交換サービス「ファイルローグ」を展開。Winnyなどよりも早くサービスをリリースしたものの先述のようにサービス差し止めなどになった。
広告の民主化 当時、インターネット広告は企業間が当たり前であったが、個人のブログに広告を掲載できるようにしたり、個人が広告を出稿したりする仕組みを立ち上げた。
書籍の民主化 誰でも簡単にeBook 形式で、書籍を出版できるサービスに関わった。

松田 道人氏はインターネットやテクノロジーを利用して、既存の業界構造をガラッと変えるようなサービスに携わって来ています。すべてが順調に行った訳ではないと話しながらも、それぞれの領域に一石を投じ続けてきています。

また、自身が直接携わった訳ではないものの、オークションサイトの立ち上げも間近で見られており、その際に、サービス立ち上げ時の最初の数十個、数百個の重要性を感じたとお話されていました。はじめの数十個〜百個は当時の社員などが出品していったもので、それが徐々に数千、数万と、広がっていく様子を見ていて、最初に一定数のユーザが入っている、出品があるなどの重要度を感じたとのことでした。

自身最後の領域は「政治」と「電力」


公式サイトのキャプチャ

そして、現在注力している(次に民主化を狙う)領域は「政治」と「電力」です。政治については2018年4月にAI 市長候補を標榜して多摩市長選挙に立候補されています。

また、エネルギーエージェントサービスや電力卸取引などを行っている株式会社エナリスに勤められており、電力領域への取り組みも積極的に行っています。よりスピーディーかつチャレンジングな取り組みをするために、会社とは別にミアン サミ氏にも関わっていただきつつ、Hedera HashgraphベースのDappsの企画開発も行われています。

「ヘデラ・ハッシュグラフ」日韓代表が語るブロックチェーン領域のポイント


ミアン サミ氏 ヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph) 日韓代表
前半最後に登壇したのはミアン サミ氏。1980年に東京都品川に生まれ、セントメリーズインターナショナルスクールを卒業。その後、ノースカロライナ州デューク大学 医療生体学、電子工学、経済学部を卒業し、2001年、日興シティーグループ証券 国債営業部勤務。2003年、同社英国ロンドン支社へ、金利営業部ヘッジファンド営業部長を務められました。また、2005年、英国キャプラインベストメントマネージメントへ転職。金利金融商品を運用。32歳で不動産事業を始め、35歳で飲食事業をスタート、そして37歳で今までの培った金融知識(ファイナンシャルリテラシー)向上活動を開始されています。2018年には著書の『毎月5000円で自動的にお金が増える方法』がAmazonベストセラー1位を獲得しました。現在はブロックチェーンを越えた技術である「ヘデラ・ハッシュグラフ」の日韓代表を勤められています。

分散型台帳領域における5つのコンセンサスアルゴリズム


今までの講演は比較的電力業界に関する話題を中心に取り扱っていましたが、ミアン サミ氏からは分散型台帳・ブロックチェーン領域について紹介いただきました。

ミアン サミ氏は分散型台帳領域において、大きく以下5つのコンセンサスアルゴリズムが存在していると話し、一般的にブロックチェーンと呼ばれているのは「POW(Proof of Work)」の部分であることを説明。さらに自身の関わっているHASHGRAPHについても、ブロックチェーンとは異なる分散型台帳のコンセンサスアルゴリズムであることを紹介しました。

LEADER 名称の通り、リーダー(管理者)が存在している仕組み。リーダーへの信頼が重要となる。
POW ビットコインなどで用いられているコンセンサスアルゴリズム。
POS 経済合理性に基づいたコンセンサスアルゴリズム。
VOTING 活用事例はないが30年前から最高レベルのセキュリティとして知られているコンセンサスアルゴリズム。
HASHGRAPH VOTINGを発展させたコンセンサスアルゴリズムで、他の分散型台帳が抱えるスピード、セキュリティ、安定性とガバナンスの問題点を解決している。
補足
ヘデラ・ハッシュグラフとは、世界初の安心安全な公開分散型台帳。ブロックチェーンや他の分散型台帳が抱えるスピード、セキュリティ、安定性とガバナンスの問題点を解決した技術で、取引速度は毎秒20万取引以上、セキュリティーは最高レベルのaBFT=非同期ビザンチンフォールトトレランス、技術特許を用いてフォークを阻止する安定性、そして運営審議会(39の世界的ブランド企業)が提供するガバナンスを兼ね備えたプラットフォーム。
公式サイト:https://www.hedera.asia

分散型台帳領域はビジネスの摩擦を軽減させている

結局のところ、ブロックチェーンや他の分散型台帳は何をしてくれるテクノロジーなのか。

この問に対して、ミアン サミ氏は「第三者への信頼で成り立っているビジネスに発生する摩擦を低減させるための技術」であると説明しました。電力業界で言えば、太陽光発電などで生まれた電力を売買するには、信頼のおける第三者(電力会社)を介さないといけません。この電力会社への信頼を分散型台帳技術に変えることで、今まで発生していた摩擦(手数料など)を限りなく薄くできるようになるかもしれないとのことでした。

しかし、一足飛びにこのような社会になれるわけではなく、ブロックチェーンおよびその他の分散型台帳においても課題はあります。そこで、次回は電力業界サイドおよび分散型台帳業界サイドの皆さんとのパネルディスカッションを通して、どのように解決できるかなどを議論していきます。

イベント概要
【日時】2018年12月17日
【参加費】2,000円
【定員】50名
【以下にご興味をお持ちの方におすすめです】
・ブロックチェーンの産業利用
・電力を始めエネルギー産業の未来
・スマートグリッド×ブロックチェーン
・ブロックチェーンの実利用を実現するまでの課題
【タイムテーブル】
18:30- 開場
19:00 開会挨拶 主催者コイネージ 執行役員 事業開発部長 安齋 孝明
19:05-19:10 環境省 地域再省蓄エネサービスイノベーション委員会委員 江田 健二氏 事業紹介
19:10-19:15 関西電力 技術研究所 エネルギー利用技術研究室 主幹 石田 文章氏 事業紹介
19:15-19:20 KWH Foundation アドバイザー 松田 道人氏 事業紹介
19:20-19:25 Hedera Hashgraph 日韓代表 ミアン サミ氏 事業紹介
~休憩~
19:40-20:20 ディスカッション
20:20-20:30 質疑応答
20:30-21:00 ネットワーキング
https://peatix.com/event/577034/