イベントレポート「次世代型ブロックチェーンと電力業界」後編 電力会社vs非中央集権推進派!?白熱したパネルディスカッション&質疑応答

イベント

COINAGE(コイネージ)が2018年12月17日(月)に開催した「Coinage Seminar Vol.5 次世代型ブロックチェーンと電力業界 ~分散型台帳は、電力業界の抱える問題をどう解決するのか~」について前後編形式でレポートしています。前回は電力領域の現状や目指すべき未来について、事業者、有識者の方々にお話しいただきました。後編となる今回は、それらを踏まえた上で、電力業界の抱える問題を分散型台帳がどう解決するかをパネルディスカッション及び会場からの質疑応答形式で議論している様子をレポートします。

電力業界が他業界と違うところや特徴とは?


会場の1割前後は電力業界に詳しい方がいらっしゃっていたようですが、多くの方は業界に精通している訳ではないと思うので、まずは、基本的な情報を共有する意味で、モデレーターを務めるミアン サミ氏から「電力業界と他業界の違い」について質問を行いました。

江田氏
2016年4月に、低圧消費者への電力小売が全面自由化したことはポイントの一つですね。これにより、数十社〜数百社というプレイヤーが一気に電力業界に参入してきました。

もう一つは、今までは大きな発電所が数個あったという状況でしたが、今後は太陽光発電などの小さな発電所が何百万という単位で増えいきます。このように供給元(発電施設)が急速に増加していくという点も電力業界のポイントの一つです。

関西電力・石田氏
できることとできないことを知っていただくためにも、私の方からはそもそも「電気の特徴」について主な3つを紹介します。

【電気の特徴】
1.電気の供給量と消費量は瞬時瞬時で常に同じ
2.電気は基本的に蓄えられない
3.光の速さで影響は伝わる

光の速さで影響が伝わり、蓄えることができない電気を、瞬時瞬時で需給を等しくしなければ、電気を使用することはできなくなります

先程、邪魔者みたいに扱われてしまいましたが、このバランスを保ち続けているのが、我々のような電力会社という訳です(笑

ヘデラ・ハッシュグラフ ミアン氏
知らなかった(笑

先程、「電力を作らなくとも、マッチングを行うビジネスモデルも今後ありえる」という流れの中で、このマッチングシステム自体は電力会社でなくてもできそうだなと思ったのですが、“電力会社だからできる”というポイントはあるのでしょうか?

関西電力・石田氏
お話したように、需給のバランスは常に保つ必要があります。そのため、電力会社は消費する量を予測して、発電所の出力をコントロールしている訳です。もちろん、予測と実際の値は異なるので、その調整も電力会社が行っています。

また、先程の松田さんの講演で、個人間で電気の売買をできるようなイメージで「民主化」というキーワードを使用されていたと思いますが、現在は、「電気事業法」というものがあり、電気事業者でないと電気を販売することはでないため、今は法律的に制限されている言う点も(会場の)みなさんに共有させていただきます。

補足
電気事業法:電力使用者の利益保護、電気事業者の運営、発電から送配電までに必要となる設備の工事・運用など、電気事業にかかわる様々な規定を定めた法律。
詳細:http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2004html/outro2_8.html
エナリス・松田氏
個人間取引における現状については、石田さんのおっしゃる通りです(笑。ありがとうございます。

最初の質問について、私自身は「問屋さんがいない」というのが特徴的だと思っています。先程、石田さんの説明にもあったように、電気というのは蓄えることができないので、“在庫“を持って、売り買いすることができません。

「蓄電池などがあるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、全体の量から見れば微々たるものなので、成立しないのが現状です。

電力のP2P取引やオフグリッドにより電力会社の仕事も変化する!?


電力のP2P取引や災害時などに備えてのオフグリッドなどの普及にともない、電力会社の預かり知らないところで、需給のバランスが崩れるということにもなるのではないかと思います。そうなったときに、電力会社の役割や仕事というのは変わってくるのでしょうかという質問が行われました。

関西電力・石田氏
私たち関西電力のような電力会社が行う仕事は大きく変わらない(なくならない)と考えています。電力会社が行っているのは全国に物理的に繋がっているグリッドにおける需給のバランス調整です。そのため、グリッドに加わるのであれば、従来通り調整を行いますし、そうでないなら、もともと調整する対象ではないと言えます。
補足
オフグリッド:そもそもグリッドとは送電系統(電線を伝って電力会社から家などに送られる電力網)のことを言う。その送電系統と繋がっていない状態(オフ)の電力システムのことをオフグリッドと呼んでいる。電力会社の電力に頼らない状態とも言える。

いつでもどこでも使えなそう!?

ミアン サミ氏はここまでの質問から、イベント冒頭で江田氏が話された「電気をいつでも、どこでも、好きなだけ」使えるようになるのは難しそうと話し、その点について、江田氏にお話を聞かれました。

江田氏
石田さんがおっしゃっているのは個人間で電力のやり取りができるプラットフォームができた世界観があったとしても、その間に立って、需給のバランスを取る役割は必要で、そこはこれからも電力会社が担っていくだろうという意見であろうかと思います。

一方で、このプラットフォームを誰がつくり、普及させるかはある種の競争であると思っていて、既存の電力会社さんかもしれないし、別の会社さんが入ってくる可能性も十分あると思っています。

エナリス・松田氏
P2P取引に近い文脈でいうと、例えば動画サイトが登場したからと言ってテレビはなくなりませんでしたし、ネットニュースが普及したからと言って、新聞をはじめとした既存ニュースメディアもなくなりませんでした。最近は配車アプリが普及したからと言って、タクシー会社がなくなるということはないでしょう。つまり、利用する割合が変化するということだと思います。100%電力会社から購入していた状態から、他の購入先も現れるというイメージですね。

大手電力会社が目指す未来像と、ベンチャーの戦い方・ビジネスチャンスとは?


続いてミアン サミ氏はクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「イノベーションのジレンマ」を引き合いに出し、電力会社が進むべき方向を尋ね、さらに、「ベンチャーだからこそできるようなビジネスチャンスはどこにあるのか?」という質問を登壇者に投げかけました。

補足
「イノベーションのジレンマ」とはクレイトン・クリステンセン教授が1997年に初めて提唱した巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。いくつかあるポイントから「イノベーションにより、既存の事業を破壊する可能性がある」というポイントにフォーカスして、今回は用いられた。
江田氏
今回のイベントで何度がでてきているように、個人間の電力取引プラットフォームのようなものを提供し、その手数料で収益を得るような会社は今後登場すると思います。ただ、制度の問題などもあるので、中長期的なビジネスモデルであると思います。

直近5年などのスパンで見ると、スマートメーターから得た、電気の使用状況などを活用したマーケティングサービスや情報銀行のように便益を生活者に返すようなサービスがどんどん登場するのではないかと思います。

関西電力・石田氏
「イノベーションのジレンマ」における解決策は、大企業自身に「破壊的イノベーション」を検討する部門を設けることと書かれていたと思います。関西電力においては、私自身がこの役割を担っています。既存事業への影響については、例えば関西エリアにおいては少なからず影響を及ぼすことは考えられますが、私たちが今、考えていることは、全国規模での話しなので、そちらはブルーオーシャンであり、悪影響というのは全体で見れば少ないと考えています。

私たちとしては、小規模な電力を個人で取引できるような電力取引所※1のようなものを検討しています。

また、ビジネスチャンスについてですが、私たちはベンチャー企業をはじめ他社企業に負けないように、資金や人材などのリソースを十分に使って「破壊的イノベーション」について検討していますので、それを超える何か(アイディアやテクノロジー)があれば、チャンスとなるのではないかと思います。

補足
※1:一定規模の電力の現物取引および、先渡取引を行っているものとしてはJEPX(Japan Electric Power Exchange)が存在する。
公式サイト:http://www.jepx.org

ヘデラ・ハッシュグラフ ミアン氏
石田さんとしてはベンチャー企業には「負けないぞ」とのことでしたが、ベンチャー企業として電力領域にいる松田さんとしてはどうでしょうか。
エナリス・松田氏
もちろん、大容量の電力などについて、大手電力会社と競争するのは難しいです。なので、私たちとしては、マイクロペイメントの領域が重要と思っています。

あとは、過去の経験からいくと、大企業には「異動」というものが付き物で、実施するタイミングで、担当者が異動してしまうということも多かったです。今回で言えば石田さんが異動なさるという可能性もあるかなと(笑

江田氏
松田さんのような戦略も一つの道ですが、例えば、いわゆる大企業と連携して、大きなビジネスをやってみるというのも一つの道かなと思っています。

ブロックチェーン・分散型台帳が電力P2P取引に使えるかは大規模化に耐えられるか


続いての問いでは、今回のキーワードの一つであるブロックチェーン・分散型台帳について触れました。今までの議論を踏まえて、「電力のP2P取引ではブロックチェーン・分散型台帳は必要か」について議論が行われました。この問については、講演にて「ブロックチェーンは活用できる“かも“しれない技術」と言われていた関西電力の石田氏がその真意についてお話されました。

関西電力・石田氏
ブロックチェーン・分散型台帳技術を活用することで、従来の電気料金よりも安く電気を購入できたり、卒FIT後などに既存の電力会社よりも高く販売できるようになるかがポイントです。

そもそも電気の料金は大きく「発電費用+託送費用+その他(営業管理や顧客管理など)」により構成されており、前者2つは変更しにくいので、ブロックチェーン・分散型台帳技術により、営業管理や顧客管理といった費用を十二分に抑えられるかどうかが重要です。

そして、「活用できる“かも“しれない」と説明したのは、小さい規模の参加者でうまく回ったとしても、100万、1,000万とネットワークが拡大した場合に、成立するかが不明だからです。国外に目を向けても、成功実績は見当たらず、実績がないという意味で、「”かも“しれない」と表現しました。

補足
卒FIT(問題):固定価格買取制度(Feed-In Tariff)の概要としては、太陽光発電などでつくられた電気を一定期間において、高値で売電できる制度のこと。しかし、2019年に買取義務保証期間が初めて満了となる。その後、引き続き売電できるかどうか、また買取価格がどれくらいになるのかが不明確となっており、「卒FIT問題」などと呼ばれている。

多くの意見が飛び交う質疑応答


講演、パネルディスカッションを通して、参加者に対して、電力業界や分散型台帳領域の情報が多く提供されました。それらを踏まえた上で、気になることや疑問に思ったことなどについて、質疑応答を通じて解消していきます。また、登壇者からは「ぜひ答えられないような質問をしてください」と深い質問を期待するような声もありました。※一部抜粋して質問を掲載しております。

会場からの質問1「電力のP2P取引ができるようになった世界観後は、電気の基本料金を低く設定するプランなどもできるのか?」

マイニングにも取り組まれたことのある、ブロックチェーン領域で活動されている方からの質問です。電力のP2P取引により電力会社以外からも電力を得られるようになった場合、基本料金を下げるようなプランも登場するのかという質問がされました。

エナリス・松田氏
すべての電力をP2P取引によって対応することは、直近では難しいと思いますので、多くは既存の電力会社から購入することになると思います。なので、100%電力会社から購入しているプランと、一部をP2P取引により、友人をはじめとした電力会社以外の場所から購入するというプランが出てくるのかなと思います。

インターネットで言えば、オークションサイトなどで、安く購入する商品もあると思いますが、一方で、企業が運営するECサイトなどで購入する商品のも多いと思います。どちらか一方というよりは、人により両方の割合が変化するというイメージを持ってもらうとよいのかもしれません。

関西電力・石田氏
そうですね。料金プランの話は、今回の分散型台帳やP2P取引の話と別なので控えますが、少しだけコメントしますね。例えば太陽光発電などによるP2P取引を中心に考えると、どうしても安定供給することは難しくなります。そのため、一定量は電力会社から購入するというのが実情となると思います。

会場からの質問2「そもそも電力のp2p取引をなぜやらねばならないのか?」

海外のエネルギー領域にも投資されている方から「そもそも電力のp2p取引は必要なのか?」という質問が出ました。電力のp2p取引により、一般生活者のコストが下がるなどのメリットがあるのかを知りたいという部分もあったようです。

関西電力・石田氏
先程の講演では割愛してしまったかもしれませんが、そもそも私たちが電力のP2P取引を検討しているのはいわゆる「卒FIT問題」を意識してのものです。電力会社は太陽光発電などによる電力を定められた期間(10年間)において、高額での買い取りを行う必要がありました。しかし、その期間が2019年に満了します。

そうなると、買い取り価格は大きく下ることが想定されます。その際の受け口として、P2Pによる電力取引を検討しているという流れです。

会場からの質問3-1「PoWにより電力をコインに変換できれば、保存できるようになり、リアルタイムマッチングが不要になるのでは?」

続いてはブロックチェーンプロジェクトのテクノロジーアドバイザーなども務められている方からの質問です。電力は大量保存が難しいため、需要と供給をリアルタイムでマッチングさせる必要があるとのことでした。発電の余裕があるときにはPowによるマイニングを行い、逆の場合はマイニングで得たコインで取引できるようにすることで、リアルタイムでマッチングさせる必要はなくなるのではないかとのことでした。

関西電力・石田氏
電気の物理的な流れと、対価(取引)の流れは別のものとなります。そのため、電力を消費して得たコインを保存できたとしても、イコール電力の保存に繋がる訳ではありません。

会場からの質問3-2「発電コストの低い場所でマイニングを行い、得たコインで電力を購入できるようになるのでは?」

同じ方からもう一つの質問です。発電コストは変えられないとのことでしたが、そもそも発電コストの低い場所・国で発電し、PoWによりマイニングを行うことでコインを得て、そのコインで電力を購入するようにできるのではないかとのことでした。

関西電力・石田氏
発電費が安いからと言って、電気料金が抑えられる訳ではありません。安い国・場所で発電してもその電力を物理的に送電ネットワークに持ってくる必要があり、その持ってくるまでのコストも加味して電気料金が決定されます。先程もお伝えしたように、物理的な電力のやり取りと、電力の取引とは別のものという点が重要です。

最後はネットワーキング


会場からの質疑応答でも、白熱する場面があり、電力領域についての理解を深める良い機会になったのではないかと思います。最後はネットワーキングを通して、全体では質問できなかったことや、納得しきれなかったことを、登壇者と参加者また、参加者同士で議論しつつ、終了となりました。